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TOMO
in the
Bathroom
・4月23日
朝、薬をのませる。ごはんに混ぜるだけでいいから前に比べると格段に楽だ。錠剤を口からのませる場合だと、暴れることもさる事ながら、そうやって暴れるものだからどうしても唾液やよだれ、鼻水などが飛び散ったり、こちらの手や衣服に付着したりする。前後に着替えたり消毒をしたりするのに時間がかかるし、何よりいらだったり焦ったりすることが、こちらにとっても相手の動物にとっても一番よくないから、文字通り、心を落ち着けたりする時間が必要だったのだ。
一方で、特に大人の猫で食べ物の嗜好がはっきりしている、つまりわがままな猫の場合、どんなに好物の食べ物であっても薬をかけたとたん、匂いをかいでぷいとそっぽを向いてしまわれる場合もある。高価な缶詰開けて、しかもその上に高価な薬かけてるのに、そんな時は、正直「殺意」を感じるが、しかし、生き延びてもらうために薬のませてるのに殺意感じてどうする。
トモちゃんのように貪婪な食欲の持ち主にはこの心配はまったく不要だった。どんな味がつけられているのか知らないが、オレンジ色の粉薬でうっすらと覆われていても、全然気にしていない様子。ありがたいことだ。
トモは大体4時間に一回ぐらいおなかをすかすようだから、体温計測と口内消毒は次の食事前、すなわち、昼ごろにすることにした。食べた直後に余計なことをしてはいたりしてもよくないし、いやなことをした後は、ごはんをあげて機嫌を取りたいからだ。
「簡単だよ」とも言われていたし、実際動物病院で先生達がされるのを観察していても、動物もそれほど嫌がってはいないし、僕にも出来るんじゃないの?と実は前からタカをくくっていた。でも実際ひとりでやってみる段になると、不安。肛門の壁面を傷つけて、この上余計な病気にさせてしまったらどうしようとか。あるいは、正しく計測できるのだろうか?その結果如何で手当が遅れ、とり返しのつかないことになったら!とか何とか。病的な心配性はどうしようもない。なにせ、病気なんだから、こっちも。
ともかくやってみよう。スルリ、おっ、これでいいのか?簡単に入るじゃない。徐々に身体を前にずらそうとするからもちろん気持ちよくはないんだろうけど、暴れはしない。いけるじゃないか!問題は目盛を読むこと。私は年齢からしてもちろんデジタルよりも水銀の体温計の時代が長いから、心得がない訳じゃないが、しかし動物は動くし、反射を避けていろいろ角度を変えようとするとますます嫌がるし、確かにかなり読みにくい。一分計などが常識だった人間の体温計に比べるとずいぶん感度がよく作られているようだ。その分もちろん精度は甘いんだろうけどね。
38.4℃、目を疑った。でもちゃんと中に入ってるし、30秒ほどもたっている。実は今朝から元気そうに見えたんだ。鼻水もよだれもずっと減ってるし、食欲も回復している。でも中途半端な期待を持たないために、なるべく気がつかないようにしていたんだ。
この子はひょっとしたら、治るんじゃない?はじめてそう考えたら、涙がボタボタ出てきた。この10日間、やってきたことが報われた。自分のやったことが役に立った。そう考えて、また涙が出てきた。
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龍宮城だより